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「人工関節で障害年金を申請したいと考えているんだけど、障害年金は申請できるのか?」「人工関節でも重度じゃなければもらえないのでは?」「正社員として通常通り働いているから支給されないんじゃないか?」
このような悩みを抱え、障害年金を検討あるいは、あきらめていらっしゃる方らの相談をたくさん受けます。
人工関節を挿入された方は障害年金を受給できる可能性がありますが、この事実は未だにほとんど知られていません。このコラムでは、人工関節を挿入した方が障害年金を受給するにあたり、どのような要件があるのか、
人工関節は何級になるのかなど、専門家である社会保険労務士が解説します。
人工関節とは?
人工関節手術は、傷んだ関節の表面を取り除き、人工の関節に置き換えて関節の痛みを軽減する手術です。
主に下記の原因疾患により、人工関節が適応されます。
- 変形性股関節症
- 関節リウマチ
- 骨頭壊死
- 臼蓋形成不全
- 外傷による脱臼や骨折
また介護職など、足腰に負担のかかるお仕事をされる方や、ステロイドを服用されていた方が手術されることが多いようです。
障害年金とは?
障害年金は、公的年金の加入者が、病気やけがなどで一定の障害状態になった場合に支給される年金です。
障害年金は、「障害基礎年金」「障害厚生年金」の2種類があります。障害の原因となった病気やけがで初めて病院を受診した日(初診日)に、どの年金制度に加入していたかによって、支給される障害年金が決まります。
障害年金を受給するための要件
人工関節にて障害年金を受給するためには、主に3つの要件があります。
症状が出始めて初めて病院を受診した日(初診日)が特定できる
初診日の前々月までに3分の2以上の期間、年金を納めて(免除して)いる。
または、初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと。
上記に当てはまっていたら、障害年金の申請を行うことができます。
人工関節は何級に該当する?
人工関節を挿入置換すると、原則として3級と認定されます。
ただし、3級は厚生年金にしかない障害等級です。
初診日に国民年金へ加入していた場合や、初診日が20歳前の場合は会社員等で社会保険に加入している場合を除き国民年金とほぼ同様の取扱いとなるため、原則対象とはなりません。また、60歳以上65歳未満(国内在住の方のみ)の年金未加入期間にある場合は、原則として受給することが出来ません。
しかし、人工関節を挿入してもなお、一定の障害が残り日常生活やお仕事に著しい支障がある場合は、2級として認定される場合もあります。
障害認定日の特例について
障害認定日は、原則、初診日から1年6か月経過した時点(20歳前が初診日の場合は、20歳の誕生日の前日)のことをいいます。
なぜ1年6か月という期間が設けられているかというと、病気やケガによる症状が「障害」の状態になるまで、おおよそ1年6か月かかるとされているからです。
しかし、特例として、初診日から1年6か月以内でも、その病気やケガが「治った」場合は、その治った日を障害認定日とすることになっています。
障害年金での「治った」には、「元どおりに治った」という概念以外にも、その症状が固定し、治療の効果が期待できない状態になったことを含みます。
人工関節の挿入置換の手術をした場合、「症状が固定された」として、特例が適用され、手術をした日が、障害認定日となります。そのため、1年6か月を待たずとも、障害年金の申請が可能となります。
人工関節を挿入して、仕事を継続している場合でも障害年金3級はもらえる?
障害年金は、病気やケガにより、日常生活やお仕事などが制限されるようになった場合に、受給できる年金ですが、働いていると必ずしも受給できない、というわけではありません。働きながらでも受給されている方は多くいらっしゃいます。人工関節を挿入した場合、少なからず日常生活やお仕事に制限が出るとされており、働いているかどうかに関わらず、原則3級として認定されます。
人工関節を入れたら、5年前にさかのぼって障害厚生年金3級をもらえる?
障害年金の制度を知らず、障害認定日において申請をしていなかった方のために、本来ならば受給できていた障害年金をさかのぼって請求することを、遡及請求(認定日請求)といいます。
遡及請求にはいくつかの条件があります。
- a.初診日が特定できること
- b.保険料納付要件を満たしていること
- c.障害認定日において、一定の障害状態に該当していること。
- d.障害認定日時点の診断書を取得できること。
ただし、現時点の診断書に人工関節の手術を実施した日が記載されている場合は、認定
日現在の診断書を省略できます。
遡及請求は、必ず障害認定日までさかのぼって判断されます。
また、障害認定日以後の、1番症状が悪化した時期へ遡ることはできません。
そのため、人工関節を挿入置換した場合でも、初診日から1年6カ月を経過している場合は、遡及請求はできず、現時点からの請求(事後重症請求)のみ可能になります。
事後重症について
障害認定日(初診日から1年6カ月経過した日)には人工関節の手術は行っておらず、その後、症状が悪化し、人工関節をそう入置換した場合、障害年金の請求を行うことができます。このことを、事後重症請求と言います。(この請求は65歳に達する日の前日までに請求する必要があります。)
いつまでさかのぼって受給できる?
遡及請求は、障害認定日以後はいつでも請求が可能です。しかし、遡及請求が認められた場合は、直近5年分の年金しか受給することはできません。年金を受給する権利の消滅時効は5年とされているからです。遡及請求をお考えの場合は、早めに請求されることをおすすめします。
両足が人工関節になった場合の等級は?
人工関節を挿入置換すると、原則として3級と認定されます。
これは、1か所でも2か所でも、挿入置換している数に関わらず、原則として3級と認定されます。ただし、日常生活の状況や可動域、筋力の状態により2級となる可能性があります。
人工関節で障害年金を受給するための手続きとは?
障害年金の申請は必要な書類を用意したのち、年金事務所もしくは市町村役場で行います。
提出する書類は、下記の通りです。
【医師に依頼する書類】
- 受診状況等証明書
- 医師による診断書
【請求者が記載・用意する書類】
- 病歴・就労状況等申立書
- 年金請求書
- 年金手帳など基礎年金番号がわかる書類
- 戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明書、住民票、住民票の記載事項証明書のいずれか
- 請求者名義の金融機関の通帳
上記書類を、年金事務所または市区町村役場の年金窓口に提出します。書類提出から支給決定・送付まで、おおよそ3か月~6か月ほどかかります。障害年金の支給は、通知書送付から1~2か月後から開始されます。
申請の際の注意点
人工関節で障害年金を申請する場合、いくつか注意点があります。具体的に見ていきましょう。
先天性と診断された方
先天性股関節脱臼や先天性臼蓋形成不全、先天性異常が原因の、変形性膝関節症・変形性股関節症などと診断された方は申請の際注意が必要です。なぜなら初診日について、先天性障害の場合は、生まれた日をもって初診日とみなされるからです。原則、人工関節を挿入置換した場合は、3級として認定されます。
しかし、生まれた日をもって初診日とみなされた場合、「20歳前傷病による障害年金=障害基礎年金」ということになります。障害基礎年金に3級はないため、障害年金を受給するには、障害等級は2級以上に該当することが必要になります。
初診日が国民年金の方
初診日が国民年金の方も、20歳前傷病による障害年金同様、障害基礎年金の対象となるため、障害等級が2級以上に該当する必要があります。
初診日が国民年金でも受け取れる2つのケース
症状が重いとき
初診日から1年6か月経過時点にて、障害等級2級以上に該当せず受給が出来なかった場合でも、その後、症状が重くなり、障害等級2級以上に該当するようであれば、受給できる可能性があります。これを事後重症請求と言います。
一下肢については、一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの、一下肢の用を全く廃したものに該当するとき、請求が可能です。事後重症請求の注意点として、認められた場合、年金は請求した翌月分から支給されるので、請求が遅れれば遅れるほど受け取れる年金が消えてしまいます。そのため、一月でも早く請求することが重要です。
また、請求は65歳の誕生日の前々日までに行う必要があります。ただし、老齢基礎年金の繰り上げをされている方はできません。
社会的治癒
社会的治癒とは、初診日がリセットされることを言います。
医学的には治癒していなくても、日常生活を一定期間問題なく過ごせていたことが客観的に認められると、治癒したと見なされ、再び以前と同じ傷病が生じても、新たな傷病を発病したものとみなすという考え方のことです。
幼少期に臼蓋形成不全を指摘され治療をしていた、先天性異常が原因の変形性膝関節症と診断された、などの場合でも、学生時代は体育の授業を問題なく受けており、運動部に所属していた、肉体労働の仕事をしていたなど、日常生活に支障がなかったことを証明できれば、再発後に受診した日を初診日とすることができます。
まとめ
人工関節の置換手術を受けている方は、少なくとも障害厚生年金3級に該当する可能性があります。しかし、「障害年金の制度をそもそも知らなかった」「人工関節は障害年金の対象と知らなかった」などの理由で、受給できるはずの年金が受給できていない場合があります。心当たりのある方は早急に障害年金請求の手続きをしましょう。
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